The world of pure white UCHIYAMA GAMI
純白の雪にある「内山紙」の世界
日本人の生活に古くより根付き、活用さてきた和紙。様々な和紙の生産地がある中、長野県には「内山紙」という、独特な製法で作られる和紙があります。内山紙は楮(こうぞ)を原料に、手作業で作られる、強靭さとしなやかさを兼ね備える高級和紙です。一枚一枚手作業で漉かれるなど、丁寧に手間と時間をかけて、自然環境の恩恵を受け内山紙は誕生します。
長野の雪が育む、しなやかな和紙
長野県北部の農家の人々にとって、重要な冬の副業でもあった和紙づくり。江戸時代に製法が伝わると、原料となる楮が手に入りやすく、また強靭な障子紙の需要が高かったことから、盛んに和紙作りが行われるようになりました。豪雪地帯である長野県北部の農家の人々は、11月下旬になると、原料の楮を刈り取ります。内山紙づくりの特徴とも言えるのが、楮の束を雪一面に並べてさらす「雪さらし」。雪が溶ける際に発生するオゾンを利用して楮の皮を漂白する、この特別な技法はまさに奥信濃の厳しい冬の気候が生んだものであり、ふっくらとした丈夫な紙を作る秘訣でもあるのです。「雪さらし」を経て漂白された楮の皮は、柔らかくなるまで煮て、叩き、溶かされ、熟練の技術で丁寧に均一の厚さで仕上げられます。漉かれた紙は、圧力がかけられ、水分を絞り出して乾燥されます。丹念に進められる一つ一つの工程には、職人の根気と技術が注がれており、こうして形をなした内山紙は用途に合わせて裁断され、人々の手元に届けられるのです。
静かに生き延び続ける伝統
明治時代に入ると、製造方法が改良され、生産も拡大します。ところが、大正時代に入り、大量生産可能な洋紙が普及し始めると、手間がかかる紙漉き産業は急速に衰退。現在では職人も数人しかおらず、内山紙の伝統は危機的な状況にあります。それでも雪を利用し加工された原料を使った内山紙は、日焼けしにくく、通気性に優れ、強靭で保湿力もあるという利点を持っています。その用途は、書道用紙だけではなく、障子紙や照明器具などインテリアとしても抜群の機能を持っています。豪雪という厳しい自然の条件を製法に生かした先人たちの知恵が詰まった内山紙は、長く手入れし、使える逸品として私たちの生活を彩ってくれるのです。