Gratitude and perservation – SHINSHU GIBIER
自然と人との対話にある「信州ジビエ」
「ジビエ」(gibier)とは、狩猟によって食用に捕獲された野生の鳥獣のこと。野生動物を狩り、それを食する狩猟文化はもともとヨーロッパで盛んでした。王侯貴族がハンティングを楽しんだ後、料理とともに狩りの成果について語り合う。そんな習慣が徐々に庶民の間にも広まったという経緯もあり、ジビエは高貴で特別な料理として愛され続けてきました。一方、日本では仏教が広く信仰されていたことから、19世紀になるまで肉食は禁忌とされてきました。しかし、長野県のように冬になると農業が困難になる山間部の寒冷地では、貴重なタンパク源として獣肉食の習慣は古から続いてきました。狩猟の神、武勇の神として古くから信仰を集めた諏訪大社には、「諏訪の勘文」というものがあり、各地の猟師や武士らにも唱えられていました。それは「慈悲と殺生は両立する」とのお諏訪さまの説で、狩猟などの殺生を罪悪として忌み嫌った時代もこの説が記された神符を授かった者は、生きるための狩猟が許されました。
環境を守る信州ジビエの魅力
20世紀後半になると、流通の発展や、畜産や養殖の発達とともに、肉や海産物が日常的に食されるようになる一方で、食の地域性は失われはじめます。しかし近年、里山の荒廃と共に、深山に生息していた野生動物の生息域が徐々に里山まで広がり、農作物や林産物、希少な高山植物までもその被害を受け森林の生態系そのものに影響が出るようになりました。こうした背景から、日本に古くからある食文化と共に、ジビエ肉がメインに登場するフレンチなど新しい食文化も加わり、ジビエとして知られるように。サクッとした鹿肉のカツから、とろとろに煮込んだ鹿肉のカレーまで、和洋問わず、ジビエ料理の幅は広がりを見せています。また、食と自然との関係性を見つめ直し、日々の暮らしに取り入れていくことは、厳しい自然の中を生き抜くために創造性を豊かにし、歩んできた先人たちにあらためて学ぶ機会にもなっています。
命を大切に、まるごといただく
もともと山の神を信仰する日本の猟師たちには、守るべき山のルールが数々あり、狩り自体神聖な行為として考えられてきたそう。現代の狩りも里山の環境や人々の暮らしを守るために必要なプロセスなのです。捕獲した野生動物は、食用の肉としてだけでなく角や骨、皮などもインテリアやアクセサリーに利用するなど、まさに余すことなく命をいただくという精神のもと、狩猟が行われています。無駄なく命をいただき、その命と引き換えに自然環境が守られることへ感謝の念を忘れないこと。「信州ジビエ」は、風土を重んじる長野県の心を体現しているようです。