Premium Japanese dried fruit – ICHIDA-GAKI
芳醇な甘みを持つ日本のドライフルーツ − 市田柿
秋から冬にかけて軒先にずらりと吊るされる柿。周囲の木々はだんだんと色褪せ冬支度を始める中で柿だけは煌々と鮮やかな色を保ちつつ、柔らかな晩秋の陽の光に照らされて少しずつ水分が抜けていきます。これは日本の干し柿作りの風景であり、柿の産地では冬の保存食として干し柿作りが行われてきました。乾燥して一回りも二回りも小さくなった柿の表皮についた白い粉は、柿渋タンニンが乾燥することで糖化したもの。中を割るとオレンジ色の実が顔を出します。日本で古くから愛されてきた干し柿は、噛めば噛むほど甘いのです。先人たちの知恵によって作られたこのドライフルーツは、8世紀には日本の文献に登場しており、「柿が赤くなると医者が青くなる」といわれるほど栄養価に優れており、保存食として冬の寒さが厳しい地域で生産が盛んになったのもうなずけます。
長野の自然が育むドライフルーツ
長野県はそんな干し柿の生産量・出荷量ともに全国一位を誇ります。中でも、2016年に農林水産省によって地理的表示産品(GI)にも認定された「市田柿」は、長野県の干し柿生産・出荷量の95%以上を占めます。その栽培の歴史は500年以上ともいわれ、高森町の市田地域で栽培されていたことから「市田柿」と呼ばれています。もともとは囲炉裏で焼いて渋を抜き、甘味を引き出す方法で食べられていたことから「焼き柿」と呼ばれていたそう。焼いても干してもおいしいとその評判が広まり、この地に根付いていきました。1921年「市田柿」に名前を変え、次第に県外に出荷されるようになりました。
毎年11月上旬から中旬にかけて原料となる生柿の収穫が行われます。皮を剥かれた柿は1ヶ月ほど乾燥させますが、表面をやわらかく保ちながら中の水分を抜いていくことが重要。おいしい干し柿になるための要素が、実はこの地域の風土に隠されています。高森町は、南北に212km広がる長野県の南部に位置し、中央アルプスと南アルプスの間を縫うように流れる天竜川の西側に広がる河岸段丘にあり、町の東西でかなり高低差のある所です。11月ごろになると天竜川からもうもうと朝霧(川霧)が立ち込め、この霧が柿に適度に湿気を与えながらじっくりと時間をかけて乾燥を繰り返すことで、市田柿の魅力の一つであるもっちりとした食感が生み出されるのです。
日本の市田柿を海外へ
柿は海外でも馴染み深いフルーツですが、ドライフルーツにして食べる習慣があるのは東アジアの国々などごくわずか。中を割ったときの鮮やかなオレンジ色あいが美しい市田柿は、海外での人気も高まっており、中国では春節(2月)の質の良い贈り物として徐々にその名が知られつつあります。また、砂糖・保存料不使用でビタミンAや食物繊維豊富なことから、健康食やオーガニック食品への関心が高いヨーロッパでも、無添加で栄養豊富なドライフルーツとして注目が集まっているのです。
長野県の自然の恵みと人々の手により丁寧に作られる市田柿。ねっとり濃厚な甘さは、チーズやバター、ヨーグルトなどの乳製品と相性が良く、チーズやバターと市田柿のセットは、ワインやウイスキーのおつまみにもぴったり。肉料理やサラダなどに使用すれば、見た目と栄養価をワンランク上げることができます。ヨーロッパでは秋になると、店頭に日本の柿が「KAKI, CACHI」(カキ)というそのままの名前で並びますが、その後に訪れる寒い冬こそ、もっちりした歯応えの市田柿を少しずつかじり濃縮された自然の甘みを味わいながら温かいコーヒーやお茶をすすったり、ひと手間加えて食べながらワインやウィスキーで体を温める、柿を最も贅沢に味わう季節といえそうです。