Cuisine for the mind, body and soul – Kaori Endo
身体が喜ぶ日々の食事 – 遠藤カホリ
食事には、「特別な日の食事」と「毎日の食事」の2種類あります。パリ11区に佇む、ビオ食堂「LE PETIT KELLER(プチ・ケレール)」では、長野県軽井沢町出身の遠藤カホリさんが、オーナーシェフを務め、日々の健康を縁の下から支えるような「毎日の食事」を届けています。特に、日中提供している「お弁当」はフランス文化の観点からは新しく、かつ、メニューもユニークなため、毎日足を運ぶ常連客がいるほど。そんな彼女がどのような経験を経て、どのような想いで日々食事を届けているのかを探っていきます。
遠藤さんは、18歳まで長野県の軽井沢町で暮らしていました。14歳の頃、イギリスへ語学留学していた際にフランスへと旅行。そのとき生まれたフランスへの憧れの気持ちが拠点を置くきっかけになりました。「食」が大好きなご両親の影響を受け育った遠藤さん。当時からお菓子屋さんやパティシエになりたいという夢を抱いており、パリで飲食店を開くことは自然な流れだったのかもしれません。「LE PETIT KELLER」の萌葱色が鮮やかな入り口をくぐると、カジュアルながら、品の漂うカラフルな空間が広がります。そこではスタッフ同士はもちろん、スタッフとお客さんの間でも和気あいあいと、旧知の友人同士が持つような気さくで穏やかなコミュニケーションが繰り広げられています。まるで家族と食事をしているような温かさは、遠藤さん自身の持つ「食」に関するルーツが、家族との思い出に強くひもづいているからかもしれません。
”……自分がこれは好きって言えるものは、エネルギーのある食べ物なんですよね。それってカロリーとかで測れなくて、誰かが本当に心を込めて作ったものっていいエネルギーを持っていると思うんですよ。それを食べてもらいたいっていう”イートインはもちろんですが、昼間に提供しているお弁当からは遠藤さんの「食」が人々の生活の支えになること、また愛情の届け方のひとつであるという考えが伺えます。
遠藤さんのお弁当は、販売するその日の朝、仕込みをします。フランスでは、事前に食事の準備をする習慣は決してポピュラーでありません。しかし、良質な食材で、手作りで毎日丁寧に、お客さんのために愛情を込めて準備をすることこそ、遠藤さんの考える「お弁当」なのだそう。お米を中心に、メインの肉や魚を多くしすぎず、お惣菜として旬の野菜も盛り込む食材選びにも遠藤さんの優しさが感じられます。「お弁当」という概念もそうですが、野菜が脇役になりがちなフランス人の食事に、野菜の美味しい食べ方を発信している遠藤さんの料理は新しい食の体験にもなっているのです。事実、遠藤さんのお弁当を食べることで、間食が減ったり、午後胃もたれせずに過ごせたりと、健康的な生活を過ごせたとの経験を通して根強いファンが出来るのでしょう。
遠藤さんの「食」に対する考え方は、青年期までを過ごした長野での日常の暮らしから大きく影響を受けたそう。お父さんが山歩きが好きだったこともあり、山菜を口にする機会が多かった遠藤さん。自然の恵みを身近に感じながら育ってきました。また、よく通っていたお弁当屋から玄米食がいかに体に良いか、ひいては体に良いものを摂ることの大切さを学んだそうです。長野で過ごした経験が、味覚だけではなく、「体がどれだけ美味しく感じられるか」を追求する遠藤さんの料理に繋がっているようです。ナチュラルで過不足がなく、大切なことの本質だけを抽出したような料理と遠藤さんの人柄は、パリで暮らす人々の暮らしをさりげなく、しかし確実に豊かにしていました。