Finding beauty in life – MATSUMOTO FURNITURE
「美」は生活の中にある‐ 松本家具
静かに凛と佇む、濃い茶色の洋服ダンス。しっとり手に馴染む木製のスプーン。長野県松本市周辺で作られている工芸品や家具には、どこか馴染み深く、主張しすぎない、特有の美しさがあります。県土の80%を森林が占め、森林面積は全国3位を誇る長野県。森林資源に恵まれている上に、からっとした気候ということもあって、16世紀には松本城下では木工品作りが盛んとなり、20世紀初頭には松本は日本有数の和家具産地としてしられるようになりました。
工藝の美は、健康の美
大正時代に入ると、日本の人々の生活はますます西洋志向となっていき、洋食や洋服が持て囃されるようになりました。そのような中、人々の暮らしに息づく工芸品に美を見出したのが、民藝運動家・柳宗悦です。太平洋戦争の混乱によって一時、松本家具作りは衰退したものの、戦後、暮らしの中の美を提唱する民藝運動の考えが取り入れられるように。1953年には、イギリスから西洋椅子の製造技術を学んだことより、古くから受け継がれてきた伝統の技をベースとした松本家具の代表作とも言える椅子が誕生しました。このような民藝運動家たちの努力もあり、松本家具は1974年に当時の通商産業省より伝統的工芸品の指定を受けました。
和と洋の美しいバランス
洋家具をモデルとする松本家具ですが、全体的に落ち着いた色合いが「引き算」のデザインを基本としています。じっくり時間をかけて木材に含まれる水分を落とし、最終的に家具作りに最適な木材として仕上げる。手間をかけて作られた木材は、家具のどの部分に使うべきか慎重に選定され、組み接がれていく。こうして計算し尽くされて組み立てられた家具は、塗装を経て、落ち着いた色味を帯びるのです。
美は生活の中にある
松本家具の図案は職人の手によって一枚一枚手書きされ、その家具が実際に生活のどの場面で使われるかということもじっくり考えられています。松本家具が目指すのは、ただ見た目が麗しいだけではなく、使う人の生活に馴染み、末長く愛着を持って使い続けることができる一生の宝物なのです。そのこだわりは細部にまで至り、銅や鉄で作られる金具細工も見事。無駄を削ぎ落とし実用的でありながら、使う人に静かに寄り添う美しい家具。それはまさに柳宗悦が見出した「美は生活の中にある」という精神を体現した作品なのです。