The beautiful water and ingenuity of Nagano – SOBA
水の名所に美味い「そば」あり
「そばといえば信州」というほど、長野県は全国を代表するそばどころ。現在は麺として食されることが多いですが、古くは粒のままお粥にしたり、粉を挽いてそばがき、そば焼きなどの方法で食べられていました。標高3000m級の山々に囲まれ、平均でも標高1000mを超える長野県には、冷涼な気候で昼夜の寒暖差が大きく、水はけの良い土壌など、良いそばができる条件の揃う地域が多く存在します。そのため、食文化の歴史として、山岳信仰とも関わりが深く、山で修行する者たちの携帯食としてそばが使われたとの話も残されるなど、小麦や米の栽培に適さない地域の重要な主食としての役割を担ってきました。
江戸時代になると、江戸のまちには職を求め、地方から単身の男性移住者が増え、外食産業が盛んに。活気を呈した江戸の3大ファストフードとして人気を博したのが、寿司、天ぷら、そして「そば」でした。16世紀後半には、現代と同じように生地を練って薄く均等に延し、包丁で麺の形に切って食す「そば切り」というスタイルが登場したといわれ、厳しい環境を生き抜くための食から、安く、手早く食べられるファストフードとして、「粋」を好む江戸の町人たちに愛される食へと大きな変貌を遂げました。諸説あるものの「そば切り」は長野県の木曽地域で誕生したとの説が有力で、木曽路の宿場町に立ち寄る旅人や、長野の地とゆかりのある大名たちの手によって全国に広がったと言われています。
「蕎麦」という概念の変化
そば粉の生産量を見ると長野県は北海道に次ぎ全国2位。それでも、日本人にとって「そば=信州」というイメージが根強いのは何故なのでしょうか。そばの食べ方として主流のそば切りは、そば粉と水により作られる生地をこね、伸ばして、切り、それを茹でてからキリリと冷えたたっぷりの水でぎゅっと締めますが、使用する水は清らかな軟水が適しているといわれています。その点、急峻な山々に雪が降り積もり、豊富な湧水となる長野県は、そばの栽培だけでなく食文化として根付く地としても最適と言えるのでしょう。そして、雄大な自然に囲まれ、産地や自然を身近に感じられる信州のロケーションも、信州で食べるそばの味わいを一層際立たせ「そば=信州」というイメージを与えているのかもしれません。
工夫から生まれた現代の蕎麦文化
そば粉を使った料理が発展したのは日本だけではありません。例えば、フランスでは、そば粉を使ったクレープ「ガレット」が有名で、りんごのお酒と合わせていただくのが定番です。小麦が育ちにくいフランスの寒冷地でも、蕎麦粉は小麦の代替品として重宝されてきた背景があるのだそう。小麦や米に代わる物という点では日本と同じであり、小麦や米の栽培に適さない地域で生き抜くために人々の知恵が生み育んできた食文化といえるでしょう。自然環境 と共存しながら育まれる信州そばは、長野県の風土があってこそのなのです。