Delicate senses unique to Japan – TSUKEMONO
日本特有の繊細な感覚・和のピクルス − 野沢菜·スンキ
「漬物」(TSUKEMONO)は、主に野菜を塩、米糠、酢、味噌、酒粕、醤油などにつけて作られる保存食であり、いわば日本のピクルスです。和食の基本的な献立の中で漬物は副々菜(香の物)として献立に彩りを添えてくれます。漬物の歴史は古く、奈良時代(710-784)にはすでに寺院の僧侶の間で食べられていたと言われています。漬物は日本人の繊細な味覚と嗅覚から生まれた一品なのです。また日本各地にはそれぞれの地域ごとに漬物のレシピ・食べ方があり、時代を超え受け継がれてきました。例えば、日本有数の漬物の産地として有名な京都では、様々な食材を使った色鮮やかな漬物が多いことが特徴です。一方で、雪がたくさん降り積もる長野県では、厳しい冬を乗り越えるため保存食の文化が発達し、様々な漬物が作られています。中でも木曽谷で赤かぶの葉を使って作られるすんき漬けは塩を使わず乳酸菌が豊富な漬物として近年注目を集めています。
塩を使わない奇跡の漬物すんき
今のように交通が発達していなかった時代、海から遠く山に囲まれた長野県の木曽谷で塩は貴重品でした。この地で古くから作られてきた「すんき」は、野菜を中心に食料が乏しくなる冬の保存食を作る際に、山葡萄や木の実と一緒に蕪の茎を漬け込んで、自然と発酵させたのがその始まりと言われています。すんきは保存食にも関わらず、塩を使わない漬物なのです。その味は酸っぱく、ヨーグルトに匹敵するほどの乳酸菌を含むと言われています。すんき作りが盛んになる冬、木曽谷では「すっぱくなったか?」いう言葉をあいさつ代わりに会話が始まるほど、すんき作りは地域の人々をつなぐ役割であり続けています。すんきは、木曽谷の厳しい冬の環境において、いかに塩を使わずに食材を保存し、栄養を摂るかという人々の工夫から生まれた逸品なのです。
熟成の過程を楽しむ野沢菜漬け
長野県北部の野沢温泉村では、蕪菜の一種「野沢菜」を温泉水で洗い、漬け込む「野沢菜漬け」作りが行われています。野沢温泉村には源泉かけ流しの共同浴場が村内に13か所ありますが、11月初旬になると期間限定で半分ほどが野沢菜を洗う「お菜洗い」のために開放され、それぞれの湯船や併設の洗濯場で老若男女問わずにお菜洗いをしながら会話を交わす村人の姿が見られます。温泉は野沢温泉村の人々にとって、台所としての役割を果たすとともに、人々がコミュニケーションを取る場としても大切にされてきたのです。
漬け込んだばかりの「浅漬け」は、シャキシャキ、青々としています。スキーシーズンが始まる12月中頃になると、「本漬け」が食べられるようになります。べっこう色をした「本漬け」は、発酵が進み風味豊かで深い味わいです。さらに発酵が進むと酸味が強くなりますが、野沢温泉村の人々はそれを捨てることはありません。酸っぱくなった野沢菜は、酒粕で煮てご飯のお供やお茶請けとして楽しみます。その他、地元では「刺身より美味しい」とも言われる夏の終わりに行われる蕪菜の種まきから数日経って間引いた若菜を湯がいたりおひたしにして食べる「間引き菜」など、野沢温泉村の人々は四季折々の食べ方で余すことなく野沢菜の味わいを楽しんできました。さらに野沢菜漬けは、日本食だけではなくピザやパスタ、チャーハンとの相性もよく、手を加えることによって一味も二味も違った方法でも食べる楽しさが広がっているのです。
このように、長野の人々にとって「漬物」とは厳しい冬を生き抜くために欠かせない食材であるとともに、人と人とを繋ぐ存在であり続けてきたのです。