
信州ブランドを率いる人たち
更新日:2026年2月20日
子どもたちの“学びたい”をどう支え、地域と繋げているのか、そして「一人ひとりの学びたいを叶える」ために何が必要なのかを伺いました。

伴 美佐子さん
長野県教育委員会委員 コミュニティスクールアドバイザー
東御市出身(上田市在住)
専業主婦から社会教育の道へ進み、「地域とともにある学校づくり」を長年牽引している。
長野県が推進する「信州型コミュニティスクール(CS)」は、学校・家庭・地域が一体となり、子どもたちの成長を支える取り組みです 。今回は、信州型CSアドバイザーであり、上田市立北小学校の地域コーディネーターとして現場を支え続ける伴美佐子さんに、学びがもたらす幸福感や心の豊かさについてお話を伺いました 。
―― 伴さんが教育に関わるようになったきっかけは何でしょうか?
もともとは20年ほど専業主婦として子育てに専念していました。とにかく子どもが大好きで、子育てがひと段落した2007年、下の子の中学入学を機に友人の勧めで上田市教育委員会の社会教育指導員に応募したのが始まりです。その時に配属されたのが上田市の公民館で、当然ながら公務員の仕事とはどういうものかも分からず、職場の皆さんにたくさん助けていただきました。また、そこで地域の方々と交流する楽しさを知り、2008年からは今のコミュニティスクールの原型ともいえる文部科学省の学校支援地域本部事業で、通称「しおだっ子応援団」にコーディネーターとして関わることになりました。

―― 「しおだっ子応援団」としてどんな活動を行いましたか?
塩田中学校からの要望は2つあり、ひとつは校舎の全面改築を翌年に控え、工事中は環境が変わるので、地域ぐるみで子どもたちを支えてほしいということ。そして、もうひとつは、学校から心が離れてしまった子どもたちを支えてほしいということでした。
当時の塩田中学校は、「荒れた学校」というレッテルを貼られ、地域の人々の心は学校から離れてしまっていました。生徒たちも学校や地域に誇りを持てていないように見えました。何の経験もない私でしたが、保護者の方や先生方、地域のみなさんに助けられながら、まずは教室に入れない生徒たちの居場所を作ろうと空き教室に支援室を設け、教員のOBに声を掛けて生徒の見守りと話し相手をお願いすることにしました。
すると少しずつではありますが、子どもたちが心を開いてくれるようになり、支援室で過ごす子どもも増えていきました。試行錯誤の取り組みでしたが、さまざまな失敗を繰り返しながら学校と地域が「チーム」になっていきました。この時に強く実感した「どんな子どもも愛おしい」「あなたたちは私たちの宝物」という経験が、今も私の活動の基礎(いしずえ)になっています。

―― 地域連携の取り組みの中で、印象的だったものはありますか?
上田市立北小学校では、当時の校長先生の発案で「クラブ活動の地域移行」の先進的な取り組みが行われています。今でこそクラブ活動の地域移行は珍しいことではありませんが、私たちは12年前から取り組んできました。
この学校のクラブ活動はとてもユニークで、毎年、年度の初めに大人たちが子どもたちの前で「このクラブに入ったらこんな楽しい!」という1分間のプレゼンを行います。子どもたちは多種多様なクラブの中から、自分がやってみたいことを吟味して入部します。「子どもの支持を得られなければクラブは成立しない」という真剣勝負のプレゼンです。
そして一年間、地域の皆さんと深く関わりながら活動していきます。地域の皆さんも子どもたちと対等に学びに向き合い、知識を深めていきます。例えば化石岩石地層クラブは、川に行って石を拾い、砕いて顕微鏡で観察する本格派。ふるさと探検クラブは、毎回地域のさまざまな場所に出向き、お寺で座禅をさせてもらったり、柳町の町並みを歩いたり。子どもたちの“学びたい”という気持ちに応えながら、地域の魅力に触れます。
また最近では、民話を研究し、語る活動を続けている「塩田平民話研究所」の皆さんにご協力いただき、「ふるさとの民話」をご披露いただく催しを開催しました。子どもだけでなく地域の大人も大勢参加し、民話を通じて郷土を知る意欲が育まれています。大人も子どもも一緒に学べる環境があるのは、この学校の自慢でもあります。

―― 伴さんが考える「一人ひとりの学びたいを叶える」とは、どんなことでしょうか?
4年生のある授業で子どもたちから、地元・上田市山口地区の伝統野菜「山口大根」について学んでみたいという意見が出ました。学んでみたら…
「こんな素敵な野菜があるんだからもっとたくさんの人に知ってもらいたい」
「そのためにはどんなことができるだろう」
「実際に育ててみよう」
「育てた大根を食べてみよう」と興味がどんどんと膨らんでいきました。
こうした子どもたちの“学びたい”という気持ちに応えることで、大人も学ぶ機会が増えていきます。子どもたちが地域の皆さんに支えられ、安心して活動ができることで、地域全体にポジティブな学びの「化学反応」が起こります。
この「化学反応」で生まれた熱が、未来を明るく照らし、誰かの凍えた手を温める、そんなエネルギーの循環が生まれたら幸せです。
化学反応がもたらした、こんなうれしいこともありました。上田市立北小学校の前の道に、子どもたちが地域の皆さんと作った花壇「フラワーロード」があります。日中は気付かなかったけれど、日没の早い冬場は歩道が暗くて寂しいので、部活帰りや仕事帰りの人を明るく照らすような取り組みがしたいという子どもたちからの申し出があり、ソーラーライトを設置することになりました。

これはまさに、普段から地域の皆さんが子どもたちのことを「大切な存在だ」と言い続けてくださり、子どもたちも、その優しさを全身で受け止め、育っていることの表れだと感じています。誰かに優しくされた人でないと、誰かを優しくできませんよね。学びの場は単なる知識の習得ではなく、心の豊かさを育む場でもあるのです。

―― 読者の皆様にメッセージをお願いします。
一人ひとりの『学びたい』を叶え、そこから発せられる熱を原動力に、誰もが幸福感や充実感を感じられる「ウェルビーイング(Well-being)」を実現したいと思っています 。たとえ子どもたちが進学や就職でこの地を離れる時が来ても、ふと故郷を振り返った時に「しあわせだったな」と思えるような、一人ひとりが大切な存在であることを自覚できるようなエピソードを、これからも地域のみんなでたくさん作っていきたいです。
