
信州ブランドを率いる人たち
更新日:2026年3月9日
「土に還る。」をコンセプトとする合同会社を設立。 南信州の地域資源を活用した事業を展開中。

折山 尚美さん
新潟県出身。病院事務として約10年間勤務したのち、世界最古の伝統医療アーユルヴェーダを学ぶ。飯田市内で5店舗のカフェ経営を経て、現在は古民家・文化財活用など、地域活性や文化活動に取り組んでいる。
長野県の最南端に位置し、西は中央アルプス、東は南アルプスに囲まれ、中央を天竜川が流れる南信州。太平洋側の気候に属し、長野県内の他の地域と比べて温暖な気候で、降雪量も少ない地域です。南信州には豊かな自然と共存する生活から生まれた民俗芸能も数多くあり、「民族芸能の宝庫」とも言われています。
そんな南信州に移住し、地域に存在するさまざまな資源を利活用する事業に取り組んでいる折山さんに、地域資源を次代に繋いでいくことの意味と南信州に息づく風土・文化についてお聞きしました。
―― 折山さんはどんなところに南信州の魅力を感じますか?
南信州へ移住してきて、まず感じたことは、南北に長い長野県は時期が同じでも生えている植物の種類に違いがあり、その多さに驚かされました。気候も地域ごとで大きく異なり、その土地ならではの風土と風習が息づいています。ここ南信州も独自の風土が育まれており、とても魅力的に感じました。
移住して最初に就いた仕事は病院事務で10年勤務しました。でも、その間に両親を亡くし、現代医療から自然治癒力に目が向くようになり、スリランカにアーユルヴェーダを学びに行きました。アーユルヴェーダは、五千年の歴史を持つインド発祥の伝統医療で、植物や果物、ハーブなどを使った施術を行い、自然治癒力を高めることで心身のバランスを整えるというものです。
アーユルヴェーダの考え方は、日本人が古くから行ってきた生活習慣に非常に近いものがあります。旬のものを食べることで体調を整えたり、薬の代わりに植物を煎じて飲んだり、日本人は自然を上手に取り入れながら暮らしてきました。
南信州は手つかずの自然も多く、そうした昔ながらの暮らしが残っているので、人と自然の繋がりをより一層感じるようになりました。

―― 2023年にnomを設立されていますが、どんな活動をしていますか?
nomでは「土に還る。」をコンセプトに、地域の資源を最大限に活用し、南信州の魅力を次代に繋げるさまざまな事業に取り組んでいます。その一つが、松川町の古民家ゲストハウス「Furumachi tei(ふるまちてい)」の運営です。この古民家は大正時代に歯科医の方が建てた家で築110年になりますが、あまり手を入れずに改装しました。
それは、次にここを引き継いでくれる人のためです。すべてを完成させて自分のものにしてしまったら、そこで終わってしまいますが、この場所を次代に繋げていくことで価値が生まれ、いろいろな人に関わってもらうことで、みんなのもの、地域の財産になっていくと考えています。
実際に、ご近所の方がご飯を食べに来てくださったり、以前ここに住んでいた方のご親戚が食事会で使って下さったり、繋がりは広がりつつあります。食事会では、ここに残されていた器を使っているので、懐かしい懐かしいと言ってくださって当時のことをいろいろと教えてくださいます。皆さんに支えられていることを実感すると、これからも南信州で頑張ろうという気持ちになります。
―― 「Furumachi tei」では、どんな料理が提供されるのですか?
地域で採れた野草や野菜を使った健康的なものになります。驚かれる方も多いのですが、野草は根を付けたままお出ししたり、長野県の珍味である蜂の子入りのご飯には、素揚げした成虫も入っていたり、土を焼いてスープに仕立てたり。味付けも最低限の味噌や塩などで仕上げているので、素材の持つ個性がより際立ちます。 代々受け継がれた土地のエネルギーをまるごと感じていただけたらと思っています。



―― 他にはどんな活動をしていますか?
飯田市にある国の有形文化財に指定されている「旧飯田測候所」の指定管理者をしています。ここは大正時代に建てられた気象観測施設で、施設を訪れた方に資料室の案内をするのが主な仕事になります。
歴史を感じる建物は、展示やワークショップ、撮影などに利用することができるので、自分の講座を開いたり、明治大学や信州大学が出張授業を開いたりしています。こうした地域の財産を活用していくことも、それらを次代に繋いでいくために必要なことだと考えています。
―― 地域に密着した活動を続けている折山さんにとって、風土や文化とは、どんなものでしょうか?
「土地への愛着」です。先祖が守ってきた土地を代々引き継ぐというのも愛着ですよね。土地への愛着があるからこそ、風土や文化が育つのだと思います。
地域に残るお祭りもその一つだと思います。20年ほど前に平成の大合併がありましたが、南信州は合併した市町村が少なかったこともあったからか、地域に伝わる小さなお祭りが今も残っています。不便であるからこそ山の恵みに感謝して、神様の存在を身近に感じていたのだと思います。
また南信州には、「遠山の霜月祭り」や「下條歌舞伎」、「新野の盆踊り」など、国の重要無形民俗文化財に指定されるような伝統的な行事が多く、人々の暮らしは神様と共にあるという意識がとても強い地域です。
300年余り続いている今田人形浄瑠璃も小学校にクラブがあって、あの役がやりたいという憧れの対象になっています。デジタル社会にあって、熱心に浄瑠璃を学ぶという二面性を持つ南信州の子どもたちは、多様性があると思います。
人間が生きていく上で、風土や文化は不可欠だと思います。子どもの頃から地域の伝統や風土にふれて、そこに存在していることに価値を感じることが大切。そうすることで、もっと南信州の素晴らしさを世界に発信できる人たちが出てくると考えています。
これからの時代は、風土や文化がしっかりと根付いた人たちが活躍するような場が増えていくと思います。自分の地域の風土や文化を感じにくい方は、風土や文化が色濃く残る南信州を第二の故郷として活用してほしいですね。
―― 読者の皆様にメッセージをお願いします。
南信州は民俗芸能が数多く残っていて、人間と神様の狭間に身を置くような体験ができるところです。
毎年、8月に行われる「新野の盆踊り」は住民たちが三日三晩踊り続けるという、人知を超えたお祭りで、民俗学者の柳田国男氏からも高く評価されています。
お祭りの最終日は「秋唄」を唄いながら後ろを振り向かずに家路につくという習わしがあるのですが、長老に「絶対に振り向いちゃいけない」と言われると、背筋がぞくっとします。
お祭りに参加すると、日本人は神の存在を身近に感じて生きてきたことが分かります。人間は自然界の一部だということを絶対に忘れちゃいけない。たかが人間が自然界のことを全部知ったようなつもりでいるなよと戒められます。ぜひ南信州を訪れて、地域に息づく文化と風土を体感していただけたらと思います。
